サクラマスの人気の秘密は、全国でも良質な漁場で養殖されること、周辺海域の水温が低いことがあげられます。冷水性のサクラマスの成育に絶好の環境で養殖されることで天然物にひけを取りません。
サクラマスの養殖場は、淡路島南西端にある福良湾です。福良湾は、全国の養殖場で1番水温が低く、日本一潮の流れの速い鳴門海峡の近くにあります。水質が良くミネラルが豊富な漁場として有名です。
2015年から兵庫県南あわじ市の福良港で、サクラマスの養殖が始まりました。現在では、全国にその名を轟かせているブランド「3年とらふぐ」を養殖している港となります。
サクラマスに挑戦したのは、淡路島を代表する高級グルメ「3年とらふぐ」を開発した福良漁業協同組合で組合長の前田若男さんです。
3年とらふぐのブランド化成功により、冬のブランド「3年とらふぐ」、夏のブランド「べっぴん鱧(ハモ)」という2大ブランドが揃いました。
次に必要となったのが3月から5月を埋める春の新ブランドです。淡路島では、魚といえば「サワラ」や「シラス」、「ハモ」など白身の魚が人気上位を占めていました。
そこで、斬新さで注目を浴びるように赤身の魚に目を付けました。3月から5月の時期に赤身の魚としてブランド化のターゲットとして登場したのがサクラマスです。
サクラマスはサケ・マス類のサケ科の魚です。川ではヤマメと呼ばれています。冷水性の魚で日本では主に東北地方や北陸地方などの日本海側に分布しています。淡路島では生息していませんでした。
なお、古来より日本語では「マス」がサクラマス、「サケ」がサケ(シロザケ)の呼び名でした。
明治時代に英語が伝来して呼び名が混乱します。英語では、淡水と海を往来する魚は「サーモン」、淡水で暮らす魚は「トラウト」でした。日本語に訳すときに前者をサケ、後者をマスとしました。
外来種が流通してさらに呼び名が混乱します。北洋のベニザケもギンザケは、古来よりベニマス、ギンマスとの呼び名でした、前者をベニザケ、後者をキンザケとしました。
海と川で呼び名が変わる魚が登場しました。海でサクラマスは、川でヤマメです。海でベニザケ(ヒメマス)は、川でアメマス(イワナ)です。マスはなかなか馴染みのない名前となりました。
サーモン、サケなどメジャーな呼び名に比べてサクラマスがマイナーな呼び名であることも、ブランド化するために重要なポイントでした。地元食材が全国で唯一無二の存在となるための秘訣です。
サクラマスの飼育可能な水温は、マイナス1度から20度(適水温は6度から14度)の低水温でした。福良湾では、寒い地域に生息する冷水性のサクラマスの成育に必要な環境が揃っていました。
2015年は、サクラマスの試験養殖にチャレンジしました。初年度は約3000匹のうち半数が死んでしまう結果でした。生け簀で、小さめの魚が大きい魚と餌を奪い合い死んだことが理由でした。
2016年は、本格養殖にちゃんレンジしました。成長の度合いにより、生け簀を分けて養殖しました。出荷率が95%にまで高まりました。サクラマスの養殖で安定供給できるようになりました。
エサには、玉ねぎの皮やハーブ、エビのエキスを混ぜました。タマネギは、ポリフェノールが含まれて調理後の身の変色を抑える効果、ハーブやエビのエキスは、食欲を増進する効果がありました。
試行錯誤を繰り返しながら創意工夫で育て上げて、約7000匹の養殖に成功しました。
サクラマスの養殖が成功した理由は、地元の養殖家の高い技術と長年の経験によります。エサの工夫や生け簀の移動など、できる限り自然に近い条件で養殖に取り組んでいることが秘訣です。
2017年度は約7000匹、2018年度は約1万4000匹、2019年度は3業者が約2万3500匹を養殖しています。2020年度は3業者が約1万8000匹を養殖しています。
上質な養殖の淡路島サクラマスを育てています。淡路島サクラマスは、旬の一番おいしい3月から5月の3カ月間だけ出荷されます。
養殖のサクラマスと天然のサクラマスの違いは、冷凍の有無です。天然物は寄生虫(アニサキス)を除去するために一度冷凍が必要ですが、養殖物は寄生虫がいないために冷凍せずに生で食べられます。
南あわじ市では、養殖2年目となる2017年から「淡路島サクラマス」のブランド化のPR活動を開始しました。サクラマスを提供する飲食店を募集して、様々なメニューを開発してきました。
サクラマスを新しい淡路島のご当地グルメとして、冬の「3年とらふぐ」と夏の「鱧(ハモ)」をつなぐ春の名物とするために、南あわじ市と福良漁協が企画しました。
2017年は南あわじ市の20店舗が参加しました。淡路島サクラマスを使用した鍋や丼など23メニューが登場しました。約8200食、約5000万円を売り上げました。
2018年は南あわじ市の32店舗が参加しました。淡路島サクラマスを使用した鍋や丼など44メニューが登場しました。約1万8500食、約9040万円を売り上げました。
2018年8月には、兵庫県や淡路島観光協会と連携して、淡路島サクラマスプロモーション実行委員会を設立しました。
2019年は、参加店を南あわじ市以外に淡路市と洲本市を含めて淡路島全域に広げました。淡路島にある飲食店40店舗が参加することになりました。メニューも76種類と大幅に増加しました。
5月限定で新たに淡路島のサクラマス・シラス・サワラを使った「春☆スター丼」を19店舗で提供することになりました。その結果、売り上げは2万6000食、9146万円となりました。
春のサクラマスは、冬のフグと夏のハモの間をつなぐ春の名物として、宿泊施設や飲食店など観光業界から歓迎されした。生産者も福良漁協にある3店舗に増えました。
2020年は、売り上げ1億円の突破を目指しています。淡路島サクラマスは、春の新名物ブランドとなるご当地グルメとして定着しつつあります。